テレワークでの業務管理 〜それ「監視」になってませんか?〜

これまでオフィスワークをしていた会社がテレワークを導入する際には、さまざまな課題の解決が必要です。セキュリティの問題や、コミュニケーションの問題など多くありますが、今回は、「業務管理」について考えます。


テレワークでも業務ができているか確認したい

新型コロナウイルスの流行拡大により、テレワークを導入している会社も多いものと思います。昨年までは、急なスケジュールで導入しなければならないとして、VPNを利用して自宅からでも仮想的に、会社のネットワークを利用するようなセキュリティに関する関心が高かったようです。ただ、テレワークの体制も長期化し、今後も継続することが見込まれるため、「テレワークでも業務が適切に行われているか」という点についても関心が高まっています。当然、このようなニーズに対しても、対応するサービスが提供されるようになっています。

これまでのオフィスワークでは、朝出勤して同僚と顔を合わせ、机をならべて仕事をしていました。外出する社員がいたとしても、それは数時間から数日であって、しばらく経てばすぐに直接会話できるような状況でした。しかし、テレワークでは顔を合わせることも稀になります。出勤時に挨拶するわけでもないので、仕事をはじめているのか、まだ寝てるのかもわかりません。「テレワーク 業務管理」と検索すると「さぼり防止」や「監視」のような言葉が溢れた検索結果が表示されます。「これまで目の前で仕事に励んでいた社員が、自宅ではサボっているのでは?」という不安を抱えるマネージャや経営者が少なくないということでしょう。

業務をする環境は、会社から支給されたPCや定められたツールをインストールしたBYODの端末が多いでしょう。これらの環境は、ウィルスやマルウェア等に対応するためのセキュリティ対策が施された、オフィスワークでの社外持ち出しのために整備されたものだと思います。この環境は場合によっては、アクセスログをチェックしてどのウェブサイトを見ているのか確認することは出来ますが、「仕事をしているか」を厳密に確認することは出来ません。この状況でも「サボっていないか」を把握したい場合に、より特化した機能をもつ「業務管理ツール」を検討することになります。

様々な捉え方

このような「仕事してるかどうかをチェックする・される」という働き方については、様々な捉え方があるようです。

  • 自宅では公私の境目が曖昧になり、仕事に身が入らないから、見られていることで緊張感があって良い。
  • 働き過ぎる社員に適切な休憩を促すことができる。
  • テレワークだと孤独を感じやすいが、みんなが仕事をしてることが分かるとチームの連帯感を持てる。
  • 相手の状況が目に見えるので、コミュニケーションをとりやすい。

というような肯定的なものや、

  • 監視されていると信用されていないように感じる。
  • 自分のペースで仕事した方が効率が良いのに、その妨げになる。
  • 見られていることがストレスで仕事に集中できない。

というような否定的なものがあります。

捉え方は、業種やその業務における役割、組織での立場によっても異なるものと思います。直接的な業務を実施する社員や、その社員の業務を取りまとめるマネージャーでも変わりますし、経営層か否かでも変わるでしょう。また、自分の仕事がどの程度把握されるかという度合いによっても、感じ方が変わります。管理される側からすると、行き過ぎた仕事状況の管理は、否定的な捉え方が強まり、モチベーションが低下することで結果的に仕事のアウトプットも乏しいものとなります。ただ、管理する側から考えると、目の前に見えないために、適切なアドバイスも出来ないし、進捗の確認や細かな軌道修正もやりにくいと感じる人もいるでしょう。そしてこれがさらに進むと、「実はサボってるんじゃないか」というような疑心暗鬼な感情も芽生えてしまうかもしれません。

時間か成果か

時給で一定の給与が支払われる雇用形態の場合は、仕事をしている時間がそのまま給与になるので、仕事をしているか否かが明確になった方が分かりやすくて良いかも知れません。ただし、時間で一定の給与がある場合であっても、仕事をしている時間が大事なのではなく、その時間内に一定の成果を出すことが見込まれています。その点から考えると、業務を管理する側から考えると、「期待される成果を出すことができれば、仕事時間の長短は問わない」という見方も出来ます。

仕事をしているか、否かという点のみで管理するのであれば、管理されている側は「仕事をしていること」に重きを置くことになり、仕事をしているフリをするようになるかも知れません。なかなか成果が出ないが、時間どおりに仕事をしているという具合です。こうなってしまっては明らかに本末転倒でしょう。ちなみに、オフィスワークであっても、あまり成果が出ないが時間どおりには出社するというようなケースもあります。単純に、デスクについているかどうか、仕事をしている状況にあるかどうかだけを判断材料にしていると、このような誰も望まない形になってしまいます。

成果だけ目指せば良いか

では、成果だけ求めれば良いのでしょうか。人事評価で「成果主義」という考え方があります。日本の組織では、長らく年功序列を基本としてきました。長く勤めれば組織内の役職もあがり、給与もあがります。しかし、成果主義では、勤続年数に関わらず、業績によって評価されます。頑張って成果を出せば、評価も上がるため、モチベーションが高まり、さらに成果につながるということが期待された考え方です。

しかし、成果主義の欠点も指摘されています。いくつかありますが、ここでは「挑戦的な目標を掲げない」という点に注目します。成果主義では目標を達成出来ない場合に成果を出せていないとして評価が下がる可能性があります。そのため、達成可能な目標を設定しがちで、達成できないかも知れない挑戦的な目標を設定しなくなります。結果として急激な業績向上が見込めなくなります。

テレワークにおいては、確実に達成できる目標を掲げる傾向が強くなってしまうかも知れません。業務管理の仕組みで、仕事をしていることだけはチェックされて、一定以上の成果を出せば良いとなれば、そのスタイルを望む社員は少なくないでしょう。

テレワークでも、オフィスワークと同じように仕事してるのを確認したかっただけなのに、なんだかパッとしない組織になってしまいそうです。

明確な目標設定とコミットメント

では、どうすればテレワークのような制限がある環境でも、挑戦的な目標に掲げて、業績を大幅に伸ばせる可能性があるような勢いがある組織になるのでしょうか。この記事では、明確な目標設定と信頼、コミットメントの重要性を訴えたいと思います。

まずは、経営層等の意思決定する役割を担う人が、明確な目標を設定することが大事です。この目標は組織のメンバーすべてが同意できる必要があります。すぐには達成できない目標であっても、目指すべき方向はこっちであって、そのためには、自分が何をしたらよいかが分かるような目標です。社員は、大きな目標がなければ、近場の容易に届く目標をとりあえず目指します。しかし、大きな目標がわかっていれば、少なくともそれに寄与する方向に進むでしょう。

次に信頼です。ここまでに述べてきたのは、「業務管理」というニーズですが、その裏には「不信」が見えています。管理される側はそれを敏感に感じとって、それなりの反応をしているということになります。前述した否定的な捉え方は、それを表しています。テレワークでは社員が見えないから管理するのではなく、目標を明確にして、あとは信頼することが大事であると思います。そもそも信頼できない社員はテレワークでもオフィスワークでも同じです。オフィスワークでも全てが見えているわけではないため、見えていない時が信頼できないのであれば、その時点で社員としては不適切でしょう。

明確な目標が示されると、その達成のためにそれぞれの立場で寄与する方法を考え、実行します。その方法について、不信の目で監視されることなく、信頼されていれば、自分の仕事としての意識がより高まります。組織のメンバーとしての意識や自負も強く自覚されます。これらは、目標達成のための大きな原動力になるでしょう。組織とその目標に対するコミットメントを強く示すことで、より強固な信頼を得ることができるでしょう。このような組織であれば、活気に満ちていて、より高い目標を達成していくことも期待できると思います。

管理がすべて悪いというわけでもありません。会社としての労務の管理に必要な「勤怠管理」というものは、法的に必要とされていますし、オフィスワークでは、自然にとれていたコミュニケーションもテレワークでは難しいという点があるのも事実です。人によっては、孤独を強く感じてしまい、心身の健康を損なうこともあり得ます。マネージャ、経営層は見えなかったからといって、このような課題を蔑ろにするわけにはいきません。

働き方は大きく変わりましたし、完全に元に戻ることはないでしょう。マネージャや経営層は、単純にツールや仕組みに頼り一方的に社員に負担を強いることが、組織全体の活力を削ぐことがあるという点に注意するべきです。業務管理として、不定期に画面キャプチャを取られたり、仕事中はWebカメラをONにしておくというような環境では、より高い成果は出てきません。テレワーク中心であっても、組織の活力が損なわれないような方法を模索する必要があります。新しいツールを入れてダッシュボードで数字を見るだけというのが簡単かも知れませんが、それよりも組織のメンバーに、明確なメッセージを伝え続け、積極的なコミュニケーションを取る方が、より良い成果に繋がりそうに思います。

(ま)

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