【実録】 テレワークやってます(5)「心理的安全性」の確保

随分間が空いてしまいましたが、前回は、<実録> テレワークやってます(4) テレワークだとこうなります〜時間の使い方〜と題して、時間の使い方の実例をご紹介しました。今回は、テレワークという働き方における「心理的安全性」について書いてみます。


「心理的安全性」とは

「心理的安全性(Psycological Safety)」という心理学での捉え方があります。このテーマが提唱されたのは、1999年ですが、近年Google社内の調査で触れられたことで、一般にも、より広く知られるようになりました。Googleの調査に端的な説明がありましたので、引用します。

心理的安全性: 心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対してリスクを取ることに不安を感じていません。自分の過ちを認めたり、質問をしたり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと信じられる余地があります。
出典:「効果的なチームとは何か」を知る

この調査では、チームが効果的であるためには、どのような要素が寄与しているのかを調べ、最も影響するのは、「心理的安全性」であると結論付けています。今回は、日常的にテレワークの環境にあるチームメンバーの立場から、「心理的安全性」に注目して、まとめてみます。

テレワークでのチームの力学

前回までの記事で、テレワークでは様々な制約があることを見てきました。チャットやビデオ会議のようなツールを使うことで、物理的な距離やコミュニケーションの問題を軽減できることも示しました。しかし、チームから離れて単独で仕事をするのは、孤独感やチームへのコミットメントなど、「気持ちの上での問題を抱えやすい構造」であるのは、事実でしょう。特に、自分以外のメンバーは同じオフィスで仕事をしているようなケースでは顕著です。コミュニケーションに一定の制約がある場合と、そうでない場合が異なるのは、当然の事と言えます。
上で引用したGoogleの調査では、「チームメンバーの働き場所(同じオフィスで近くに座り働くこと)」は、効果にそれほど影響しないとされています。ただ、これはGoogle社内の調査結果です。多くの企業では、働き場所がチームの効率に影響するという方が考えやすいのではないでしょうか。特に日本国内で働くビジネスパーソンは、オフィスで机を並べて働くことが当たり前になっている状況です。しかし、Googleの調査結果は、働き場所に影響されない効果的なチームを作ることは可能であるということも示唆しています。
新型コロナウィルスの感染リスクや、東京オリンピックの開催を受けて、テレワークというスタイルへの要求が急速に強まっています。テレワークになったとしても、効率的なチームで成果を出せるのであれば、日本企業の当たり前が変わる契機になるのかも知れません。

実感としての「心理的安全性」と確保のためのコツ

筆者は、比較的長くテレワークの状態で仕事を続けていますが、「心理的安全性」を確保出来ていると感じています。チームの中でも、会社全体の中でも、「発言することでリスクがあること」を発する事に、不安感を感じることは殆どありません。問題領域の範囲を俯瞰し、議論の幅を広げるために、あえて、取りにくい意見や選択肢を出してみることもあります。そのような意見でも論理的な反論をチーム全体で検討することで、より本質に近づく議論をすることが出来ます。
このように「心理的安全性」が確保出来ているのは、いろいろな要因があると考えられますが、個人としては、以下の項目を心がけています。

(1) 意見が客体化できていること
その発言は、自分(主体)そのものとは分離(客体化)された「考え方」に過ぎないことを意識する。その考えが評価・批判されたとしても、それは、自分(主体)に対してなされたものではない。

(2) 心理的距離感が出ないようにする
物理的な距離は仕方ないが、心理的に距離が出ないように、できるだけ形式ばったコミュニケーションを廃する。礼儀は大事だが、儀礼的な枕詞や手続きを使わないようにする。

(3) 意見の多様性を許容する
自分が同意できない意見についても、まずは受け止めて、論理的な検討をする。立場や考え方の違いを考慮して、異なる意見も許容する。

心がけているものの、うまく行かないこともありますが、概ね自分の「心理的安全性」は確保できていると感じます。一方で、他のチームメンバーにも「心理的安全性」を確保してもらうためには、以下のような努力が必要であるように思います。

(1) 礼儀大事
必要以上に儀礼的である必要はないが、礼を持って接する。不遜な態度は心理的な距離につながる。テレワークでは特に伝えられる言葉以外の手段でのコミュニケーションが取れないため、使う言葉が適切かどうかを考えてから伝える。

(2) 相手の意見を否定する時には、ピンポイントで。できれば代案を。
評価できる点、出来ない点を明確にする。可能であれば、代替案を示す。代替案がない場合でも、前進させる姿勢を示す。

(3) 正論より配慮
反論を許さない正論は、議論を停滞させる。相手の意見を叩き潰すための正論による反論は暴力でしかない。相手の意見に寄り添った立ち位置からの発展的な批判をする。正しいかどうかは問題ではない場合も多い。

テレワークでこそ「心理的安全性」への配慮が重要

「心理的安全性」を持てるかどうかという点は、テレワークに限らず、留意するべきものですが、テレワークの場合、それが損なわれていても、分かりにくいものです。毎日会っていれば、表情や雰囲気から分かるものも、リモートにいるメンバーの心理状態は把握しにくいでしょう。適切にサポート出来ていないために、チームの活動が滞ったり、最悪の場合は、いきなり退職ということもあるかも知れません。
「心理的安全性」にだけ注目していれば良いわけではありませんが、今後、ますます場所にとらわれない働き方が当たり前になってきます。そのような時代には、今まで以上に「心理的安全」というものを意識していくことで、メンバー全員が幸福で安心した気持ちで働くことが出来、チームの力が最大化されるものと思います。
(ま)

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